コーチングでは、コーチとクライアントがセッション(対話)することにより、クライアントがゴールに向かって行動できるようにサポートします。人を行動へと促すには、「対話」が単なる「会話」「雑談」で終わってしまってはいけません。コーチはさまざまなスキルを用いています。今回は、この代表的なスキルについてご紹介します。
ざっくり見出し
コーチングがなぜ機能するのか
対話を通して、クライアントの自発的な行動を促すコーチング。コーチングが機能するためには、これまでも述べてきたように、コーチとクライアントの信頼関係がベースにあり、合意したゴールがあるということが大前提です。そのうえで、セッションの中では必要に応じてスキルを活用し、クライアントがゴールに向かった行動を取りやすくなるようにサポートしていくのです。
クライアントがセッションを受けるにあたって、これらのスキルを意識する必要は全くありません。しかし、コーチングがどのように機能するかを理解するために、スキルとその効果をお伝えしていきます。代表的な5つのスキルに絞って、ご紹介します。
・傾聴
・フィードバック
・質問
・アクナリッジメント(承認)
・リクエスト
あなたも、どこかで見たことがあるかもしれませんね。では、一つずつ見ていきましょう。
「傾聴」によって、クライアントの可能性を広げる
傾聴とは、「クライアントが願望として語っている意味を理解し、その自己表現をサポートするために、クライアントが語っていること及び語っていないことに、完全に集中する」ということです。(国際コーチ連盟のコアコンピテンシー訳より)
アクティブ・リスニングとも言いますね。もう少し、わかりやすくお伝えします。
クライアントはセッションでコーチと話すことで、自分を知ることが出来ます。クライアント自身の中にある多くの考えや感情は、普通の状態では認識できないことが多いです。
話すこと、つまり言語化することで初めて気づいたり、考えが整理されたり、アイディアが生まれたり。納得して腑に落ちたり、ストレスが軽くなったり、感情が豊かになったり、イメージがより明確になったり、ブレーキや問題に気が付いたり・・・話すことで、話し手に生まれる効果は計り知れません。
話すことによって、行動が促進されていくのです。しかも、ただ話すではなく、優れた聞き手に対して話すことが、クライアントの可能性と創造の扉を開くことにつながるのです。
クライアントに効果的に話してもらうために、コーチは常に「いい聞き手」であることを意識します。うなずき、あいづちはもちろん、表情・アイコンタクト・姿勢といったことから、話してのリズムや強弱に合わせるペーシング、キーワードをあいづちのなかに盛り込むリフレインなども意識的あるいは自然に行います。
コーチに対して「話しやすい」と感じるのは、これらのことを意識しているからです。
また、同時にコーチは、話している内容をただ聴いているわけではありません。コーチは話の内容のほか、相手が発信しているその他の情報についても敏感に察知し、メッセージを聞き分けるのです。
人は、話している内容「だけ」を情報発信しているわけではありません。声のトーン、言葉づかい、ボディランゲージ、エネルギーレベル、モチベーション、自己評価、真意・・・無意識であったとしても、様々な情報を発信しています。
コーチは「ただの相談役」ではありませんから、話の内容自体にはさほど踏み込まないことも多いです。むしろ、それを発信しているクライアントの状態がどうか、に興味があるのです。
そして、その状態を「フィードバック」するのです。
「フィードバック」によって、客観的な視点を得る
「傾聴」でクライアントが外に出している情報をキャッチしますが、必要に応じてそれをクライアントにフィードバックします。
英語の「Feed」は食糧を与えること、「Back」は返すことを意味します。フィードバックとは、相手の状態を評価せずにそのまま伝え返すことです。
コーチからフィードバックを受けることで、自分や自分の状況を客観的に見ることができ、改めて自分の問題点や改善点に気づくことができるでしょう。自分自身の状態について客観的に見ることは、ゴール達成を阻害しかねない、思い込みなどの障害物を取り除く助けになります。
不安や恐れといった、マイナスに感じた点をフィードバックすることももちろんありますが、プラスのフィードバックもたくさん返します。それは、傾聴で相手の状態をしっかり掴んでいるからこそできることです。
「今、声のトーンが上がったけど、どう感じている?」とか。
「すっと腑に落ちたように感じたけど、そういわれるとどう思う?」とか。
自分自身のことは分からないものです。フィードバックは、受ける側にとって糧となり、モチベーションも上がったりもするのです。
「質問」によって、新たな視点で考えられる
コーチングでは、「質問」が効果的に用いられます。質問が効果的であれば、クライアントは新たな視点を持ったり、ふとしたことに気づいたり、より深く物事を捉え考えられるようになります。
クライアントの話を傾聴すればするほど、コーチは、クライアントが置かれている状況や事情を把握することができます。クライアントに求められれば、問題解決のためのアドバイスをすることもありますが、基本的にはクライアントの問題を解決するのはクライアント自身です。
コーチはクライアントが自分で問題を解決し、行動する力があると信じています。
ですから、質問をすることによってクライアントがより深く自分の気持ちに焦点を当てたり、新たな気づきを得たり、ブレーキを外す視点を得たりすることができるように導きます。
質問されたクライアントは、自分の中からその答えを見つけ出し、話していきます。イメージとしては、クライアントとコーチの話す割合は、8:2、もしくは7:3ぐらいとなります。
「アクナリッジメント」によって、自分への自信が深まる
アクナリッジメントとは「承認」を意味します。コーチングではクライアントが出した結果だけではなく、それまでの過程や努力も含めてクライアントを承認します。レベルの高いゴールを目指すコーチングでは、アクナリッジメントはとても大切なスキルです。
アクナリッジメントは、クライアントを評価することなく承認するので、クライアントに安心感を与えると共に、勇気と希望を与えることができます。承認されるクライアント側は、自分の行動を認めてもらうことで、自信を得ることもできるでしょう。セルフイメージアップにも貢献できていると言えるでしょう。
究極のところ、人間は自分に自信がないと、なにをするにしても躊躇してしまったり、思い切った行動が取れなくなったりします。しかし、自分を認めてもらうことで自己肯定感を高めることができるのです。自己肯定感が高まれば、新しい行動を取る必要がある場合でも、自信を持って行うことができるでしょう。
「リクエスト」によって、行動を促進させる
ゴールを設定し、ゴール達成に向けて進み始める際、クライアントの背中をバシッと押して行動を促す「リクエスト」が効果的です。特に、信頼したコーチからの強力なリクエストがあれば、自然とやる気に満ち溢れ、実際に行動へ移す強力なモチベーションを得ることができるのです。
クライアントはゴール達成に向けて、今の自分よりも少しレベルの高いことを継続し続けていきます。そのためにコーチに大切な心構えは、クライアントの可能性を信じて、より大きな行動をリクエストできるかどうか。それによって、どれだけ大きな行動をクライアントが取れるかが決まっていきます。100と言われれば100を目指しますし、300と言われれば300を目指すわけです。クライアントに、「自分はもっともっとできる!」と思わせて、行動させられるかどうかが、コーチの価値なのです。
言い換えれば、コーチの価値は、どれだけ強力なリクエストを出来るか、と言っても過言ではないでしょう。
コーチングでのリクエストは、命令や指示ではありません。コーチングでは、クライアントが目標を達成するための行動を自分で決めて、自ら行動していくものです。その行動のコミットを強力に後押しするのが、リクエストなのです。クライアントが行動することを念押しして、クライアントが確実に行動できるようにするためのスキルと言えるでしょう。
優秀なコーチは質問をその場で考えない
優秀なコーチは、質問をその場で考えません。その場で考えると、クライアントの話を半分に聞きながら「次は何を質問しようか」「どんな言葉で質問しようか」と考えていることになります。
優秀なコーチは、あらかじめ効果的な質問を大量に用意し、「質問集」として持っています。その中から都度、適切なもの選択して質問します。
クライアントはその質問に答えていくだけで、自己分析が深まり、深く自己対話できるのです。
コーチの提供する質問の質が、クライアントの行動の質を左右します。せっかくコーチを雇うのですから、クライアントに真摯な、優秀なコーチと巡り合ってほしいと思います。
あなたが、あなた自身にとっての素晴らしいコーチと出会えることを願っています。
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